精密根管治療
精密根管治療
まずは正しい診断が重要だと考えます。診断には病理的診断と臨床的診断があります。病理診断は細胞や組織を顕微鏡で見て病気の本質を診断することで、臨床診断は治療を目的にする診断です。臨床診断はただ病名をつけるためだけのものではなく、治療方針を決める大事なものになります。正確な診断は正しい検査・診査を行う必要があります。患者さん自身が感じる自覚症状と歯科医師が見つける他覚症状があり、その両方を総合して判断していきます。
1.問診
医療面接に含まれます。まず患者さんの最も気にしている痛みや不快感を聞きます。そのほか、その症状がいつから出てきたか、どんな風に痛いかや治療をいつ行ったかなど色々な情報を聞きます。また、治療の説明を行うことも含まれます。
2.視診
見た目での診断です。お口の中だけでなく、外から皮膚や顔の対称性、リンパの腫れなどもまずは見ていきます。その後口の中を見ていきます。口の中は暗く、障害物も多く、しっかり見るのはなかなか大変です。なので手術用顕微鏡やルーペを使って注意深く見ていきます。歯の変色や穴、修復物、粘膜の腫れや赤みなどを見ていきます。
3.触診
叩いての痛みの有無や揺れの検査、粘膜の触診を行います。叩いて痛みを見ることを打診と言います。打診は叩いても痛みを見ているだけでなく、音を確認することもあります。歯の揺れは周りの組織の破壊の程度を知るのに重要です。歯が割れてしまっている場合には歯と歯茎の深さが深くなっていることもあります。
4.温度診
歯の神経が生きているかを確認するのに冷たいものでしみるか、熱いものでしみるかを確認します。正常状態ではどちらでもしみますが、異常な状態では痛みが続いたり、全く痛くないこともあります。
5.電気診
これも歯の神経が生きているかを診断するものになります。歯に電気を流し、痛みで神経が生きているか判断します。しかし、こちらは様々な影響があるため、正確でないことも多いです。
6.透照診
光を当ててみて歯と歯の間のむし歯を確認する方法です。亀裂が見つかることもあります。
7.エックス線検査
エックス線検査は利用することが最も多いです。目では見えない歯の中の状態、骨の状態がわかります。基本的にはエックス線検査は影絵のようなもので、二次元でしかわかりませんが、歯と骨の状態・根の数や形・根の先の病気・むし歯・根の長さ・根の太さ・歯周病との関係・すでに根っこの治療がされているかなどを見ています。コーンビームCTのように三次元で細かく見れるものもあります。骨から歯が出てしまっているか・根の数・根の形・割れていないかなど二次元の写真ではわかりにくい所を確認するのに便利です。
8.麻酔診
どの歯が原因かわからない場合にすることがあります。上が痛いと思っていても実は下の歯が原因なこともあります。また、原因が歯ではないこともあります。非歯原性疼痛といって筋肉や靭帯、神経自体が痛みを出していることもあります。こういった非歯原性疼痛は麻酔で痛みが無くならないことも多いです。
9.切削診
歯を削った時に痛みがあるかどうかで神経の状態を判断する方法です。最終手段です。やらないことが多いです。
10.咬合診
亀裂や破折を疑うときに固いものを噛んでもらって痛みをみる診査です。
歯内治療は細菌感染との戦いです。お口の中には様々な微生物がいます。この菌が根の中に入ったりすることは避けなければなりません。なので、治療は無菌的状態を作ることが大事です。
1.術野の消毒
触る歯の周りのプラークは取り、お薬でも周りを消毒します。
2.ラバーダム
術野を唾の中の菌がつかないようにします。ラバーダム防湿は唾がつかないようにするだけでなく、見やすくすること、周りの保護、器具の飲み込み防止などが出来ます。歯にクリップのようなものをかけてゴムのマスクをつけます。
3.隔壁
歯が大きく失われている場合にはラバーダムのクリップをかけられないことがあります。ラバーダムをしない場合にも高さがないとすぐ唾が入ってしまいます。そのまま土台として使うこともあります。
4.バリヤーテクニック
治療だけでない部分での感染防止にも注意しなければなりません。スタンダードプレコーション(標準予防策)というのを当院では採用しています。これは病気のあるなしではなく、全員が何かしらの感染症があるものとして対応します。感染源との接触を避けるため、グローブやマスクを徹底します。
5.器具の滅菌・消毒
滅菌と消毒には違いがあります。滅菌とはどんな菌も完全にいなくなるようにすること、消毒は有害な菌を減らすものになります。当院では基本的にすべての器具を滅菌しています。滅菌できない器具にはカバーをつけてカバーを滅菌したり、単回使用にしています。
1.むし歯の除去
歯内治療の原因はほとんどがむし歯から起きています。まずは感染している部分を全て取り除きます。精密根管治療時はむし歯を染めだすお薬で感染している部分を染め出して、顕微鏡下で除去します。神経が飛び出した場合、神経が正常でない場合など、この段階で治療の流れが変わっていきます。残せる場合は歯髄温存療法(VPT)。残せない場合は根管治療(抜髄・感染根管治療)に移行します。
2.隔壁
虫歯を除去すると大きな穴でうまく防湿できない場合があります。その時は歯の補強をしていきます。
3.髄室開拡
神経の部屋の根管に器具が入るようにしていきます。この時に器具が入りやすいようにすること・直線で入ることが大事になってきます。ここで引っかかるようだと折れてしまったり、しっかり汚れが取れない原因になります。歯を積極的に削ることもあれば、超音波などで細かく取っていくこともあります。
4.根管長測定
根の中を綺麗にしていくのですが、先を破壊してしまうと噛むと痛いなどの症状が消えないことがあります。しかし、レントゲンでの大体の長さと手の感覚くらいしか長さがわかりません。そこで電気的に長さを測る装置を使います。唇の端に金属のフックをかけてピーッとなるのを使われたことはありますか?あれは長さを測っています。
5.根管形成
機械的に根管内容物の除去と根管壁の汚れを削ります。中の汚れの除去だけでなく、埋めるために適した形を作ることもおこなっています。この機械的な清掃の終了の基準は明確なものがありません。一番キツイものから2〜3サイズ大きくする、削りかすが綺麗かなど曖昧なものが多いです。そこでマイクロスコープを用いることで汚れが根管内に残っていないか、目で見て判断もします。
6.根管内の化学的清掃
機械的な清掃では除去できない細い部分や削りかすなどの感染源の除去を行います。主には次亜塩素酸ナトリウム溶液という漂白剤のようなもので洗います。体には良くない液なので口の中や根の先から漏れないように注意が必要です。当院ではiNPニードルという細い器具を使って先から液が漏れないよう対策をしています。
7.根管充填
綺麗になればまた中に感染しないように緊密に封鎖する必要があります。根管充填をする材料や方法はその根の形や状態によって変える必要があります。
根の治療は根管内の菌を減らし、緊密に塞ぐことにより、歯の周囲の組織に影響を与えず、歯を保存するために行われます。しかし、根の中は複雑で必ずしも理想通りに無菌にできるわけではありません。やり直しの根の治療では成功率が65%ほどになるという報告もあります。残念ながら根の治療を行った後、経過の良くない歯があります。その時には外科的に根の治療を行うことがあります。
適応になるものは土台が大きく外せなさそうな場合、器具が入らない場合などの上から触れない場合、根の先の吸収が大きく外にまで感染してしまっている場合、大きな膿の袋がある場合などがあります。
どんな歯でも手術をして残せるという訳ではありません。鼻の横の部屋や神経に近い時や、手術をしても届かない所、被せ物が被せられないくらい歯がないときや、重度の歯周病、破折している場合などそもそも適応でない場合もあります。